大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

盛岡地方裁判所 昭和63年(行ウ)3号 判決

岩手県岩手郡滝沢村字牧野林321番地2

原告

岩滝産業有限会社

右代表者代表取締役

細田康夫

右訴訟代理人弁護士

鶴見祐策

盛岡市本町通3丁目8番37号

被告

盛岡税務署長 紺野利雄

右指定代理人

中條隆二

渡部進

古舘芳広

阿部洋一

斎藤正昭

久城博

八重樫紀男

藤倉泰光

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が,原告の昭和58年4月1日から昭和59年3月31日まで,昭和59年4月1日から昭和60年3月31日まで及び昭和60年4月1日から昭和61年3月31日までの各事業年度に係る法人税について昭和61年9月27日付けでなした各重加算税賦課決定を取り消す。

二  被告が,原告の昭和60年4月1日から昭和61年3月31日までの事業年度の法人税に係る更正の請求に対して,昭和62年7月9日付けでなした,更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は,原告の法人税の修正申告における所得額が,被告所部職員の慫憑によるものであり,真実に反するものであるとして,①右修正申告に基づく被告の重加算税賦課決定及び②右修正申告についての更正の請求に対する被告の更正すべき理由がない旨の通知処分の各取り消しを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  (確定申告及び修正申告)

(一) 原告は,被告に対し,原告の法人税について,以下のとおり確定申告(以下「本件確定申告」という。)をした。

(1) 昭和58年4月1日から昭和59年3月31日までの事業年度分(以下「昭和59年3月期分」という。)。

申告日 昭和59年5月28日

所得金額(欠損) 5,279,909円

納付すべき税額 0円

(2) 昭和59年4月1日から昭和60年3月31日までの事業年度分(以下「昭和60年3月期分」という。)。

申告日 昭和60年5月30日

所得金額(欠損) 296,703円

納付すべき税額 0円

(3) 昭和60年4月1日から昭和61年3月31日までの事業年度分(以下「昭和61年3月期分」という。)。

申告日 昭和61年5月26日

所得金額(欠損) 23,375円

納付すべき税額 0円

(二) その後,原告は,昭和61年9月20日,被告税務署長に対し,右各事業年度に係る法人税について,以下のとおり修正申告をした(以下「本件修正申告」という。)。

(1) 昭和59年3月期分

所得金額 1,455,091円

納付すべき税額 436,500円

(2) 昭和60年3月期分

所得金額 3,845,997円

納付すべき税額 1,191,900円

(3) 昭和61年3月期分

所得金額 4,620,575円

納付すべき税額 1,432,200円

2  (原処分)

(一) 被告税務署長は,原告に対し,昭和61年9月27日付けで,原告の右各事業年度に係る法人税について,以下のとおりの重加算税の各賦課決定(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(1) 昭和59年3月期分の重加算税の額 129,000円

(2) 昭和60年3月期分の重加算税の額 357,000円

(3) 昭和61年3月期分の重加算税の額 429,000円

(二) 原告は,被告に対し,昭和62年3月30日付けで,昭和61年3月期分の法人税について,欠損金額を3,695円,納付すべき税額を0円とすべき更正の請求をしたところ,被告税務署長は,同年7月9日付けで更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

3  (異議申立て)

原告は,被告に対し,本件賦課決定処分については昭和61年11月26日付けで,本件通知処分については昭和62年9月10日付けでそれぞれ異議申立てをしたところ,被告は,本件賦課決定処分に対する異議申立てについては昭和62年7月9日付けで,本件通知処分に対する異議申立てについては同年12月10日付けで,それぞれ異議申立てを棄却する決定をした。

4  (審査請求)

そこで,原告は,国税不服審判所長に対し,本件賦課決定処分については昭和62年8月8日付けで,本件通知処分については昭和63年1月9日付けで,それぞれ審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,同年5月30日付けで,右各審査請求を棄却する旨の裁決をした。

三  当事者の主張

1  本件賦課決定処分について

(一) 被告

本件賦課決定処分は,以下のとおり国税通則法68条1項の規定に基づく適法なものである。

(1) 原告は,前記のとおり本件修正申告を行った。

なお,本件修正申告がなされた経緯は,以下のとおりである。すなわち,原告の昭和59年3月期分ないし昭和61年3月期分の法人税について,被告所部職員が実地調査を行ったところ,原告の宿泊収入の一部,自動販売機売上収入及びビデオ・テレビ利用収入のすべてをそれぞれ除外していることが,会計帳簿に記載されていないことなどから判明した。そこで,右職員が,右宿泊収入等について,原告代表者に対し,関与税理士の立会いのもとで説明を求めたところ,原告代表者も,宿泊収入等に脱漏がある事実を認め,本件修正申告がなされたものである。

(2) 原告の宿泊収入の脱漏は,原告が故意に原始記録を廃棄し又は改ざんすることによって収入を過少に計上したものであり,自動販売機売上収入及びビデオ・テレビ利用収入の未計上は,それぞれの収入があることを十分知りながらその全部を隠ぺいする意思で行ったものであって,これらの原告の一連の行為は,各事業年度の所得の金額又は税額の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装した行為に該当する。

(二) 原告

原告の本件各確定申告には,収入の計上漏れはなかったが,原告代表者に対して,被告所部職員の強要に等しい慫憑がなされた結果,原告は本件各修正申告を行ったのであって,いずれも原告の真意に基づくものではなく,その内容も真実の所得額とは異なるものである。

2  本件通知処分について

(原告)

昭和61年3月期に係る法人税についての修正申告は,右のとおりの経緯でなされたものであって,その所得金額は真実に反するものである。同期の原告は,92,681円の欠損であった。

第三当裁判所の判断(資,「判決理由」)

一1  法人税の税額の確定については,所得税等とともに,納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし,その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が国税に関する法律の規定の従っていなかった場合その他当該税額が税務署長等の調査したところと異なる場合に限り,税務署長等の処分により確定する申告納税方式を採用しているところ(国税通則法16条1項1号,2項1号),申告納税方式に係る国税については,納税申告書を提出した者は,当該納税申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に不足額があるとき等には,更正があるまでは,その申告に係る課税標準等又は税額等を自己に不利益に修正する納税申告書を提出することができ(同法19条1項),又,納税申告書を提出した者は,当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定にしたがっていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより,当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合など,申告の内容が誤って自己に不利益になっていた場合には,原則として法定申告期限から1年以内に限り,税務所長に対し,その申告に係る課税標準等又は税額等につき更正すべき旨の請求をすることができる旨(同法23条)定められている。右のとおり,法人税等の国税の税額の確定について,申告納税方式を採用するとともに,納税申告書の記載内容の過誤の是正について特別の規定を設けた趣旨は,これらの国税の課税標準等の決定については最もその間の事情に通じている納税義務者自身の申告に基づくものとし,その過誤の是正は,法律が特に定めた場合に限る建前とすることが,租税債務をできるだけ速やかに確定させる国家財政上の要請にかなうとともに,納税義務者に対しても過当な不利益を強いるおそれがないことを認めたというところにあると解される。

以上の点に照らせば,納税者側が自ら提出した納税申告書の内容の過誤を主張する場合は,その法定の手続きである更正の請求を通じて行うべきであり,その手続を経ていない場合は,納税申告書の記載内容の過誤が,客観的に明白かつ重大な錯誤に基づくものであって,国税関係諸法所定の方法以外にその是正を許さなければ納税者の利益を著しく害すると認められるような特段の事情がある場合でなければ,右過誤を主張することはできないと解するのが相当であり,右のとおりの例外要件の存否については,右過誤を主張する納税者に主張立証責任があるというべきである。また,更正の請求に対する更正の理由がない旨の通知処分の取消を求める場合も含めて,納税申告書の内容に過誤があることについても,納税者側で,その内容に過誤があり,記載した額より納税者に有利な額が真実の額であることを主張立証すべきであると解するのが相当である。

2  したがって,本件においては,まず,①本件通知処分の取消を求めている昭和61年3月期分も含めて,本件修正申告の内容が真実に反することが認められるかを検討したうえ,これが認められる場合は,次に,②更正の請求を経ていない昭和59年3月期分及び昭和60年3月期分の原告の各法人税の本件賦課決定処分の取消請求に関して,その各修正申告の誤りが,右説示のとおりの過誤の主張を許す例外的要件を満たすかどうかを検討し,さらに,③右①又は②の各要件が認められない場合は,重加算税の要件である国税通則法68条1項所定の隠ぺい行為等があったかどうかを検討することとする。

二1  前記のとおり争いのない事実に,乙1の1ないし3,2の1ないし3,13,22の1,2,23の1ないし108,証人田中洋志,同野月英則及び同久保田恵美子(ただし,後記のとおり信用できない部分を除く)の各証言,原告代表者細田康夫の本人尋問の結果(ただし,後記のとおり信用できない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を加えれば,

(一) 原告は,ホワイトホテル(以下「原告ホテル」という。)の名称で,いわゆるモーテルを営業しているが,同ホテルでは,利用客一組について,白色のシーツとカラーのシーツを2枚1組で使用しており,使用したシーツは,昭和59年3月以降,株式会社ジョン(旧社名有限会社ジョンクリーナー)に洗濯に出していたが,右会社は,原告ホテルから使用済のシーツを回収し,これの洗濯が終わり次第,同ホテルに配達しており,シーツの配達枚数(組数)と原告ホテルの利用客数とはほぼ対応していること。

(二) 原告は,昭和61年3月期分の確定申告については,宿泊収入が45,603,086円であることを前提とした確定申告をしていたこと。

(三) 昭和61年8月に被告所部職員が,原告の昭和59年3月期分から昭和61年3月期分の法人税について実地調査をしたところ,その際に,原告の事務所の2階にシーツが14枚位干していることが確認されたので,この点について原告の従業員に説明を求めたところ,多い時で6,7組のシーツを手洗いしている旨の回答があったこと。

(四) その後,被告所部職員が,前記ジョンに保管されていた原告ホテルに対する売上伝票から計算される同ホテルへの配達シーツの枚数(組数)と原告の日計表及び日計テープから計算される利用客数を対比したところ,約500枚(組)シーツの配達枚数の方が上回ることが判明したこと。

(五) 被告所部職員は,右のとおりの税務調査に基づき,原告の代表者に対し,原告ホテルの宿泊収入等が申告漏れになっているのではないかとの指摘をし,修正申告をするように求めたところ,原告代表者は当初これに納得していなかったが,最終的には,宿泊収入の未計上分を,昭和59年3月期分については6,375,000円,昭和60年3月期分については3,010,000円昭和61年3月期分については3,615,000円の別口利益とするなどの内容の本件修正申告を行ったことが認められ,右認定に反する証人久保田恵美子の証言及び原告代表者細田康夫の本人尋問の結果は,前記各証拠に照らして信用できない。

2  右の事実によれば,原告においては,昭和60年4月から同年7月までの間に,未使用での汚損分と説明するには過大すぎる利用客数とシーツの配達枚数との間の食い違いがあり,また,昭和61年8月の時点において,シーツを一部従業員が手洗いしていたなど,宿泊収入の一部を計上しないための行為がなされていたところ,右のとおりの利用客数と配達枚数の大きな食い違いや一部のシーツの手洗いが,右の各時期だけに限られていたことを認めるに足りる証拠がないことや(この点に関する証人久保田恵美子の証言は,その内容自体及び前記各証拠に照らして,信用できない。),右のとおり,原告において,宿泊収入の未計上分を別口利益とするなどの内容の本件修正申告に応じていることを勘案すると,本件確定申告は,少なくとも宿泊収入の点において,過少に申告していたと認めるのが相当である。

3  そうすると,原告は,昭和61年3月期分については,92,681円の欠損であった(その前提として,宿泊収入は45,606,280円である。)旨主張するが,前記のとおり,同期の確定申告は,宿泊収入が45,603,086円であることを前提とした確定申告をしているところ,これに宿泊収入の未計上分を3,615,000円の別口利益とする内容の修正申告をしている以上,右のとおり欠損があったことが真実であるとは認めるに足りないし,その余の期の分については,原告は真実の所得額(ないしは欠損額)を具体的に主張していないが,本件修正申告におけるそれらの内容に過誤があり,別途の額が真実であることは認めるに足りないというべきである。

三  そして,右説示のとおり,原告においては,売上に,宿泊収入の一部を計上しないことを前提とした内容の確定申告をしていたから,これが,原告の各事業年度の所得の金額の一部を隠ぺいしたことにあたることは明らかである。

四  以上によれば,本件通知処分の取消請求については,原告の行った修正申告の内容が真実に反することの証明はなく,また,本件賦課決定処分の取消請求については,右処分は国税通則法所定の要件を満たす適法なものであって,いずれも理由がないから,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙橋一之 裁判官 井上薫 裁判官 阿部浩巳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例